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最新地震対策、L字金具で家具固定は効果なし? 防災アドバイザーに聞く
9月1日は防災の日。普段から防災対策をしている家庭もしていない家庭も、改めて防災対策を学び、見直しましょう。今年6月には群馬で震度5弱、大阪で震度6弱の地震が発生し、地震への備えの必要性を改めて感じた方も多いのではないでしょうか。そこでここでは、最新の地震対策について、防災アドバイザーの岡部梨恵子さんに教えてもらいます。
L字金具は家具の転倒防止に役立たないことも
地震大国の日本では、大きな揺れに備えて家具を固定しておくことが大切です。「L字金具」を使って家具の固定をしている家庭も多いと思われますが、実は万全とは言えません。
L字金具はビスなどで壁に固定して使用しますが、大きな揺れでは、固定する場所によってはビスが抜け落ちてしまうケースも。また、つっぱり棒で家具を固定するケースに関しても、天井に強度がない場合、衝撃の強さによっては効果が期待できないこともあるといいます。いま一度設置されている環境を見直してみましょう。
おすすめの対策
家具の固定には、L字金具やつっぱり棒ではなく、ダンパー機能付き(※)の”制震”器具を使うのがおすすめです。
岡部さんのおすすめは「不動王」シリーズの「T型固定式不動王」。粘着力のある2面を使い、家具と壁を固定してくれるグッズです。ダンパー機能で揺れの衝撃を緩やかにし、家具転倒を防止してくれます。
※ダンパー…ばねなどを使用して、衝撃や振動を緩和する装置
なお、転倒防止のための商品を選ぶ際は、(1)震度7まで対応しているか(2)過去に起きたどの地震をサンプルケースとして検証実験を行っているか(※)、をチェックしましょう。耐震グッズと言えど、「倒れにくくする」程度では、強い揺れが来ると簡単に倒れてしまいます。その際にメーカーにクレームを入れても、「転倒しないという明記はしていない」と言われ泣き寝入りすることになりかねません。もし「倒れにくくする」グッズを利用する場合は、「被害を少なくする」「避難時間をかせぐ」程度の効力だと考えておきましょう。
※転倒防止のための製品は、建築基準法やJIS規格に沿った明確な基準・規格がなく、メーカー独自の基準(検証実験環境)によって製品化されています。前述の不二ラテックス社の「不動王」シリーズは、最も家具転倒による死傷者が多かった兵庫県南部地震の地震波を再現して転倒するか否かを判定基準としているといいます。
電子レンジや薄型テレビは倒れずに飛んでくる
電子レンジや薄型テレビは、固定していない場合、強い揺れでは倒れずに飛んでくることがあります。すぐ横にいなくても、同じ空間にいる場合は被害を受ける可能性があることを頭に入れておきましょう。また、飛んでくる際の衝撃でコード部分の導線がちぎれてしまい、通電火災につながってしまうことも。大型家具ではなくとも、しっかり固定するようにしましょう。
おすすめの対策
ジェルで固定できる「ジェルマット」が便利です。その際、あまりに安価な商品だと効力が強くないものも多いです。どんな環境下で実験されているか、こちらもチェックしておきましょう。
低い家具なら転倒被害が少ないと思っていない?
「家具による被害」と聞くと、タンスや食器棚のような背丈の高い家具をイメージしてしまいがち。ですが、低い家具は倒れない代わりにスライドして横に大きく動きます。家具が動くことで打撲などの被害を受けることもあるので、チェストなどの低い家具も固定することが大切です。
なお、地震がくると身を守るために「机の下に隠れる」というイメージがありますが、机が動いてしまい、脚が身体にあたり被害にあうことも。また、机がある環境下はダイニングなどのため、食器棚のような危険な家具が周りにある場合があります。廊下や玄関など、倒れてくる危険なものがない場所の方が安全なこともあります。「地震=机の下に隠れる」ではなく、「凶器になり得るものが周囲になく、安全な場所はどこか」をしっかり考えておきましょう。
おすすめの対策
先ほどご説明した通り、ダンパー機能付きの固定器具を使用するのがおすすめです。
冷蔵庫固定は命と生活を守るために重要!
家具だけではなく、冷蔵庫の固定もしていますか。100kgほどある冷蔵庫は、家具や家電の中でも危険性の高い家財です。また、倒れる際に中に入っている食材が飛び出てくる可能性もありますね。
倒れてきた際に命に危険が及ぶという以外にも、冷蔵庫を固定しなければいけない理由があります。冷凍庫に保冷剤を入れている家庭は少なくないはず。これが地震の際に活躍します。
例えば停電したとしても、その保冷剤があれば冷蔵庫自体がクーラーボックスの役割を果たしてくれ、数時間は冷蔵保存が可能となるでしょう。ライフラインが止まっているなか、食料に困ることのないよう、自分たちの判断で食べることのできる食材を持っておくことはとても重要です。また、保冷材は夏の熱中症予防や打撲を冷やす際にも役立ちます。冷蔵庫が倒れてドアが開かない状態になると、これらのメリットが利用できないのです。
おすすめの対策
冷蔵庫の転倒防止には、専用の器具を使用するようにしましょう。その際も、どの環境下での実験で、どの震度まで対応しているのかを必ずチェックしてください。また、食品を買った際などにもらえる保冷材は、ある程度冷凍庫に入れてストックしておくようにしましょう。
食器棚は倒れそうになっても支えに行かない
震災時に食器棚が倒れてきたとき、被害を少なくしようと、つい支えに行ってしまう方が多いようです。しかし、食器が飛び出してきて身体に傷を負ったり、食器棚の下敷きになり動けなくなったりしてしまうことも想定されます。倒れてきても絶対に支えに行かないようにしてください。
おすすめの対策
食器棚も同じく固定し、必ずガラス片の飛散を防ぐ「飛散防止フィルム」を貼っておくようにしましょう。なお、もし倒れてきた際は身体の正面ではなく、背中(もしくは側面)で受け止めましょう。正面で受け止めてしまうと、そこから逃げる態勢を取りづらいばかりか、呼吸に関与する身体の器官である「横隔膜」を傷つけかねません。
風呂の水を溜めておくのは実は危険
防災対策をしている家庭に多い、風呂の水を抜かずに溜めておくという方法。身体を拭いたり、汚れたものを洗ったりするときに便利と言われていますが、本当にそうでしょうか。風呂の水は、1日たっただけでもかなり多くの細菌が繁殖します。その不衛生な水で、いつもとは違う環境下で免疫力の落ちた子どもやお年寄りの身体を拭くと、健康被害を受けかねません。また、食器洗いに使うのも同じく考えものです。特に夏場は細菌の繁殖スピードが速いので注意が必要です。
さらに、風呂に溜めた水をトイレを流すために使用するという話もありますが、特に集合住宅においてはこれも危険。配管が壊れていると、下の階の住人に汚水がいってしまうこともあるといいます。地震保険では、第三者に被害を与えてしまった場合は保証されません。もし階下の住人に自分のせいで被害が出た場合、その補償は自分の家計からしなくてはいけません。
おすすめの対策
NPO法人日本トイレ研究所の提言では、震度5弱からはトイレの水は流さないのが鉄則です。トイレは非常用のものを準備しておいて使うようにしましょう。また、身体を拭きたい場合は、からだ拭き用の大判ウエットティッシュなどを使用しましょう。
避難用グッズ、本当に今のままで大丈夫?
避難用に、リュックなどに非常用グッズを入れて持っている方も多いでしょう。でも、本当に今の内容で大丈夫でしょうか。まず、リュックが重くなりすぎていませんか。災害時に最も大切なのは命を守ること。リュックが重すぎては、逃げるスピードが落ちてしまいます。
また、購入しておいたグッズの性能があまり良くなく、いざというときに役に立たないことも。例えば、雨や寒さをしのげる「アルミブランケット」は、ものによっては”シャカシャカ”と音がうるさく、避難所でクレームが出ることもあります。また、居場所を知らせるためのホイッスルも、遠くまでしっかりと音が聞こえるものでなければ、もしもの時に見つけてもらえません。
おすすめの対策
リュックは防火・難燃性があり、なるべく軽いものを選びましょう。また、アルミブランケットはコンパクトに折りたため音がほとんどしないものが最近では販売されています。その他のグッズを購入するときも、使用シーンをしっかり想像したうえで購入してください。
今回紹介したグッズはホームセンターなどで購入可能です。今の防災グッズは性能とデザインを兼ね備えたものも多く出ているので、週末に家族と一度買い物に行ってみてはいかがでしょうか。
監修: 岡部梨恵子
今回話を聞いた先生
防災アドバイザー。東京大学生産技術研究所 RC77 防災研究会会員。企業、労働組合・社会福祉協議会、小学校PTA、行政のイベント、文化講演会等で講演活動を全国で行う。整理収納アドバイザーの資格も持つ、防災備蓄、片づけのプロフェショナル。
公式サイト:「岡部梨恵子HP」