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お賽銭はいくらが正解?作法はあるの?神社への正しい参拝方法を解説
【民俗情報工学研究家が監修】お正月や合格祈願、安産、厄払いなど大切な節目ごとに参拝する神社。ところで神社を参拝するにあたり、正しい作法はご存知ですか?お賽銭の金額や作法、参道の歩き方、おみくじを引くタイミングなどについて、民俗情報工学研究家の井戸理恵子先生に教えてもらいます。
お賽銭とは? 3つの意味
神様へのお供え物
神社に参拝する際、お賽銭を入れて願い事をしますね。このお賽銭、どういった意味合いを持つものなのかご存じですか?
実はお賽銭はもともと神様へのお供え物でした。かつては農作物やお酒などが供えられており、それが次第に紙に包んだお金になり、現代のように直接お賽銭を入れるようになったようです。
ではなぜお供え物やお金を投じていたのかというと、「日々の生活に支障がないように」「家族が健やかでありますように」との願いをするためでした。神様の元を「わざわざ訪れ、お供えをする」ということは、先に良いことの預金をするようなもの。何事もない日々に「良いことの預金」をすることによって、先々に不幸が訪れないようにとの願いが込められていました。
いわば、「先に代償を払っておくことによって不穏を払拭する」という意味があったのです。
護持費
お賽銭は「護持費」としての意味合いも持っています。こちらは神主や神社へ、日々、神社や神様を自分たちの代わりに守ってくれている感謝として、玉串料や初穂料などを僅かばかりでもとお渡しするものです。
神様への合図
さらには、神様に自分が来たことをお知らせする合図という役割も果たします。本来、神様への合図の役割を果たす鈴縄がお賽銭箱の頭上より下がっていますが、鈴縄のない神社もありますね。そこでジャリジャリと音を立ててお賽銭を入れることで、神様にお参りに来たことに気付いてもらうというわけです。
今より神様との距離が近かった時代には、神様への親近感を込めて「また来ましたよ」「今日もお元気ですか」といった挨拶がてらお賽銭を入れるという習慣もありました。
このように、お賽銭にはいろいろな意味合いがあります。ただし、真剣に願いを叶えたい場合はお賽銭をはずむのではなく、正式参拝を申し込むのが良いでしょう。なお正式参拝のご祈祷料は「自分の願いの代償」として、「少し高いかな」と感じる程度の額を納めます。
お賽銭の相場、いくら入れればいい?高いほど効果がある?
毎年初詣のシーズンには、大金を賽銭箱に入れる人がいたとニュースになることも。お賽銭を入れる際、「額はいくらにすればいいのかな?」と悩む人も多いことでしょう。語呂合わせなどで入れるといいという話もありますが、基本的に「いくらが正解」というものはありません。穴あき銭(5円玉や50円玉)の方が良いとされているのは、「運が通る」というゲン担ぎのようなものです。
基本的には願い事が深ければ深いほど、高い金額を出す方が多いようです。これは前述したとおり、お賽銭には願い事の代償として納めるという意味合いがあるためです。またお札を入れる場合は神様にお渡しするものであることから、新札の方が望ましいでしょう。
ただし、大きな金額をお賽銭箱に投入するのはやや無作法。大きな金額にする場合(願い事が深い場合)はお賽銭としてではなく、玉串料や初穂料としてきちんと神社に祈祷料を納めさせていただくか、正式参拝をお願いするのが良いでしょう。正式参拝では神主が正殿に神様をお招きするため、直接願いを伝えることができるとされています。
人から借りたお金を入れてもいい?
五円玉や五十円玉がないからとお賽銭を人から借りる人もいますが、自分の代償として納めることから、なるべく自分のお金を出すようにしましょう。お賽銭がない場合には軽く会釈をして「お参りに来ました」というご゙挨拶をし、また縁のある時にお参りに来ましょう。
お賽銭の作法
お賽銭はあくまでも神様へ向けられるもの。混雑している場合でも投げ入れず、お賽銭箱へ丁寧に入れるようにします。入れてから2礼2拍手1礼へと進めましょう。
境内の中のお賽銭箱には全部入れるべき?
神社には本殿の他、摂社、末社と呼ばれる社があります。社すべてをまわってお参りする必要はないですが、時間があるときはそれぞれの神様に挨拶し、お賽銭を入れましょう。
それぞれの社には様々ないわれがあるので、一つひとつまわると神社の歴史が見て取れます。そのため、お参りの際は末社と摂社にお参りした後に本殿に参った方が、本殿にまつられている神様のことが理解できますよ。
神社によってお賽銭額は異なる?
神社によってお賽銭額は異なりません。自分の気持ち、願い事の深さで決めましょう。
参道の歩き方
神社の鳥居から本殿に続く参道。この参道を歩く時に、どこを歩くか決まっていることをご存知でしょうか。
神社の参道のうち真ん中は神様が歩く場所なので避け、左側を歩きます。これは「左右」の考え方として「左(ひだり)=火(この世の象徴)が足りる」「右(みぎ)=水(あの世の象徴)がみなぎる」という考え方があるため。この世に生きている私たちは左側を歩きます。
ちなみに火(ひ)は「ほ」とも読まれ、火が抜けるさまから、あの世の人を「仏(ほとけ="ほ"が解き放たれていく状態)」と日本では呼ばれるようになったと言われています。魂が昇華していく状態をそのようにとらえたのでしょう。なお、この説は仏教でいう「仏」様とは意味が変わり、あくまで日本古来の考え方です。
正しい参拝の方法
鳥居を通り神社の境内に入ったら、まずは水屋にてお手水(ちょうず)で手を清めますが、正式な作法をご存知でしょうか。「ひしゃくを右手で取り、水をすくい左手を清め、右手を清め、左手のひらに水を入れて口をすすぎ、口をすすいだ左手をすすいで、ひしゃくを手前に縦に持ち、持ち手をすすぎ、静かに伏せて置く」という流れが正しいものとなります。
また本殿のお参り時にも作法があります。これには、神社によって「2礼2拍手1礼」や「2礼4拍手1礼」など、参拝時の指定方法が異なる場合も。その理由は、かつては神社や地域ごとに作法が違っていた名残があるからです。明治時代以降、基本の作法は「2礼2拍手1礼」に決められたので、基本的にはこの作法で行いましょう。ただし、お参りをした神社から指定がある場合はそれに従います。
おみくじは結ぶ? 持って帰る?
おみくじの引き方について、「神社に行くたびに引く人」や「年始に引き、そのまま1年ずっと引かない人」などいろいろなパターンに分かれますね。「何度も引いて良いものなの? 」と疑問に思う人もいますが、おみくじは「引きたい」と思った時に引くのが良いので問題ないでしょう。おみくじの"有効期間"も特に定められていません。
なおおみくじの吉凶だけを見て、悪いおみくじをさっさと境内の木に結んで帰る人も多いですが、本当は持ち帰って"戒め"にするのがおすすめです。昔のおみくじには吉凶は書いておらず、メッセージだけが漢詩などで書かれていました。吉凶だけではなく、メッセージもとても大切なのです。せっかく神様からいただいたメッセージ。しっかりと戒めにして書いてあることを心がけることで、良い方向へ導いてもらえるでしょう。
なお、いま持っているおみくじについては、次におみくじを引く際に境内の木に結び、そっと感謝の気持ちを告げると良いでしょう。
お守りは複数の神社のものを持っていても大丈夫?
お守りは「複数を持っていると神様がけんかしてしまう」という説もありますが、どうするのが良いでしょうか。
ベストは、次のお守りを買った時に、その神社や買った神社で前のお守りをお炊き上げしてもらうこと。複数持っているのが悪いわけではありませんが、お守りが増えるということは願い事が増えるということなので、願いが複雑になってしまいます。いま自分にとって何が一番の願いなのかを考え、役割が終わったお守りは返すようにしましょう。
神社へのお参りは、いまの自分を確認する機会とも言えます。作法を知って気持ちよく神様に会いに参りましょう。
監修: 井戸理恵子
今回お話を聞いた先生
井戸理恵子(いどりえこ)
ゆきすきのくに代表、民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大學卒業後、株式会社リクルートフロムエーを経て現職。現在、多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執る傍ら、日本全国をまわって、先人の受け継いできた各地に残る伝統儀礼、風習、歌謡、信仰、地域特有の祭り、習慣、伝統技術などについて民俗学的な視点から、その意味と本質を読み解き、現代に活かすことを目的とする活動を精力的に続けている。「OrganicCafeゆきすきのくに」も運営。坐禅や行事の歴史を知る会など、日本の文化にまつわるイベントも不定期開催。