「おはぎ」「ぼたもち」の違いは季節にあり!こしあん・粒あんはどう違う?

お彼岸の時期に食べる「ぼたもち」や「おはぎ」。どちらも、あんこでお餅を包んだ和菓子ですが、なぜ2つの呼び方があるのかご存じですか?名前の由来やお彼岸に食べる理由について解説とともに、最後はおいしいレシピも紹介します。

目次

「ぼたもち」「おはぎ」の違いは作られる季節にあり

春と秋に迎えるお彼岸。それぞれ春分の日と秋分の日を中日として、前後3日間(合せて7日間)がお彼岸の期間となります。

一般的には春のお彼岸には「ぼたもち」が、秋のお彼岸には「おはぎ」が食べられます。両方ともあんこ(小豆)でお餅(もち米)を包んだ和菓子であり、材料は共通しているのに、呼び方が違うのはなぜだかご存じですか?実は、その違いは作られる季節にあるのです。

「ぼたもち=牡丹餅」は牡丹の咲く春に食べられる

春のお彼岸に食べられている「ぼたもち」の由来は「牡丹餅」。春のお彼岸の頃は牡丹の花が咲く時期で、その時期に食べられることからこう呼ばれ始めました。

牡丹は女性の血を調える漢方として古くから知られていたこと、また華やかな縁起のいい花に見立てることで、魔除けや病除けを期待するという心の表れでもあったと考えられます。

「おはぎ=お萩」は萩の花の咲く秋に食べられる

一方、秋のお彼岸に食べられている「おはぎ」の由来は「お萩」です。おはぎに使用する粒あんを秋に咲く萩の花に見立て、こう呼ばれるようになりました。

萩の花も牡丹の花と同じく、濃いピンク色をしています。かつて赤色は魔よけの色とされていたため、魔を祓う効果を求めたのでしょう。

ちなみに萩は秋の七草の一つでもあります。春の七草はかつてより食用として食べられていますが、秋の七草は食用ではなく、主に婦人病にきく漢方の生薬として使われていました。

また「萩すだれ」という言葉があるように、萩はすだれ状に垣根を覆います。そうした漢方としての効果や趣きを含めて、牡丹同様に魔除け、病除けとしてお祀りしたとも考えられています。

▼お彼岸の由来を詳しく解説
お彼岸には、仏壇に供え物(供養膳やぼたもち・おはぎなど)をして供養します。お彼岸の由来やNG行為、お盆との違いなどを民俗情報工学研究家の井戸理恵子先生に教えてもらいました。

お彼岸はいつ? お盆との違い、ぼたもちとおはぎの使い分けも解説

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実は春夏秋冬で呼び方が違う!夏は「夜船」、冬は「北窓」

余談ですが、ぼたもちやおはぎのような、お餅をあんこで包んだ和菓子は、夏は「夜船」冬は「北窓」とも呼ばれます。これはいわゆる言葉遊び的な言いまわし。どういった言葉遊びかといえば、「月」と餅つきの「搗(つ)き」をかけたものです。

ぼたもちやおはぎは基本的に米をついて作らないため、「つき」がないとして、「月のない夜は、いつ船が着いたかわからない」ので「夜船」としたり、「北側の窓からは月がみえない」ことから「北窓」と呼ぶようになったとか。

夏の夜に浮かぶ船や、北窓にちらつく雪の白が、潰したご飯の白とあんこの黒をイメージさせたのではないかとも考えられます。

地域によっては呼び方や材料が違う?

地域によっては「ぼたもち」「おはぎ」の呼び方が、通年そのまま使われているところもあります。

また小豆の収穫がままならない地域では大豆のきな粉を使ったり、また漁村などでは青海苔をまぶしたり、とそれぞれの特産品で代用しているところも多くみられます。

こしあん・粒あんと、あんこの形状がちがうのはなぜ?

春に食べられるぼたもちは基本的にこしあんで、秋に食べるおはぎは粒あんで作られます。これは小豆の収穫時期の違いが理由。

小豆は秋頃に収穫されるため、おはぎは収穫してすぐの小豆を使って作られます。収穫したての小豆は香りもよく、皮も柔らかいので、粒をいかして粒あんで食べるのです。

おはぎ

一方、春は貯蔵していた小豆を使用してぼたもちを作るため、古くなった小豆の硬い皮を取り除き、あんこのみにして調理します。そのためぼたもちには、こしあんが使用されるのが基本です。

ぼたもち

調理方法を変えることで春と秋の違で異なる豆の風味や食感を楽しみ、また季節ごとの食べ方を愛することで、季節の移り変わりや故人が亡くなった時期を思い出すなど、食べ物を通じて記憶し、また記憶がよみがえるのを楽しんでいたというわけです。

おはぎの用語「半殺し」とは、小豆を粒あんにすること

おはぎの用語である「半殺し」。何とも物騒な言葉ですが、これはどういった意味で何が由来なのでしょうか?

「半殺し」とは東北地方や長野県、静岡県、四国地方などの方言で、比較的山間部で使われていることが多いようです。小豆をこしあんにすることを皆殺し、粒あん(粒が残っている状態)にすることを半殺しと表現します。いずれもお米や豆をすりつぶした状態をさした言葉として流布しています。

昔話には「旅人が一夜の宿を借りたとき、宿の老夫婦がなけなしの小豆をお粥にして食べさせようとした」という類の話がたくさん残されていますが、夫婦の好意を旅人が勘違いし、夫婦の対話を聞いて、逃げ出したといったエピソードも。

かつては隠語として使われていた……!?

このお話は主に東北や四国に伝わるものですが、地域的に平家の落人伝説(おちゅうどでんせつ※)などが関わってる場所でもあるため、元は隠語として使われた可能性もあります。敵に侮られないように「おはぎにしましょうか?それともぼたもち?」と使われていたのかもしれません。

※戦や政争に破れた高貴な身分の者が、僻地に逃れて身を隠したとされる伝説のこと。

お彼岸に食べるのはなぜ?

ご先祖様へのお供えものに由来

ぼたもちやおはぎをお彼岸に食べるのは、お彼岸がご先祖さまをお祀りする時期であることと関係があります。

古来より日本人は、旧暦1日・15日と二週間に一度、仏壇に飾る榊(さかき)や高野槙(こうやまき)といった植物やお花、またお供えものを変え、新しく祀るといった習慣がありました。

この日は可能な限りいいものが神仏に祀られ、昔からぜいたくな食べ物と考えられていた小豆やお米も含まれていました。しかし庶民の生活においては、当時高価だった小豆やお米はいつでもあるわけではありません。

そこで1日と15日に毎回お供えするのではなく、あの世とこの世の境目があいまいになり、ご先祖さまとの距離も近くなると考えられているお彼岸の時期にだけ、特別に供え、食べる習慣がうまれたと考えられます。

この祀ったお下がりをぼたもちやおはぎに変えて食べたのが、お彼岸の時期にこれらの和菓子を食べる風習の由来です。

ぼたもちやおはぎといった甘いお菓子にするのは、あの世の人たちは甘い味を好むと考えられており、生きている人たちが亡くなった人の代わりに食べている、という考えがあったから。お彼岸に関わらずお供えものに菓子が祀られるのはこれが理由です。

小豆で無病息災を祈るという意味も

さらにお彼岸の時期には亡くなる人が多かったことから、魔よけの効果があると考えられた小豆で身体を調え、神仏に手を合わせることで無病息災を祈っていたともいわれています。

おはぎのレシピ

最後に簡単におはぎを作れるレシピを紹介します。あんこをこしあんに変えればぼたもちも作れるので、ぜひ作ってみてくださいね。

レシピ考案:尾花友理(管理栄養士)

材料(8個分)

もち米 1合 / 塩 ひとつまみ / 粒あん(こしあんでもOK) 適量 / きなこ(砂糖を加えたもの) 適量

作り方

1. もち米は研いで水けをきる。耐熱ボウルに水160ml(分量外)と一緒に入れ、1時間給水させる。

2. 1のボウルに塩を加えてラップをかぶせる。電子レンジ(600W)で3分加熱し、ラップを外して混ぜる。もう一度ラップをかぶせ、同じく600Wでさらに4分加熱する。そのまま10分蒸らす。 

3. ラップを外し、濡らした麺棒で米粒を軽くつぶす。粗熱が取れたら8等分してたまご形に丸める。

7. 小豆のおはぎはラップにあんこを広げ、お餅を包む。きな粉のおはぎはバットにきな粉を広げ、お餅を転がしてきな粉をつける。

全体監修: 井戸理恵子

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今回お話を聞いた先生

井戸理恵子(いどりえこ)

ゆきすきのくに代表、民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大學卒業後、株式会社リクルートフロムエーを経て現職。現在、多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執る傍ら、日本全国をまわって、先人の受け継いできた各地に残る伝統儀礼、風習、歌謡、信仰、地域特有の祭り、習慣、伝統技術などについて民俗学的な視点から、その意味と本質を読み解き、現代に活かすことを目的とする活動を精力的に続けている。「OrganicCafeゆきすきのくに」も運営。坐禅や行事の歴史を知る会など、日本の文化にまつわるイベントも不定期開催。

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